HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)とは、JIS Z 8122で「定格流量で粒径0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集効率を持つエアフィルター」と定義された高性能微粒子フィルターである。空気清浄機・クリーンルーム・医療施設・半導体製造など、高い空気清浄度が要求される場面で使用される。
HEPAフィルターは1940年代にマンハッタン計画で放射性微粒子の除去を目的に開発された高性能フィルターである。その後、半導体製造のクリーンルームや病院の手術室など、産業・医療分野に普及し、1990年代以降は家庭用空気清浄機にも広く搭載されるようになった。
HEPAフィルターの規格は各国で定められており、日本ではJIS Z 8122、欧州ではEN 1822(H13/H14クラス)、米国ではDOE規格が基準となる。「True HEPA」は0.3μm粒子を99.97%以上捕集するフィルターを指し、安価な「HEPA-type」「HEPA-like」フィルター(捕集率85-99%程度)とは明確に区別される。
HEPAフィルターはガラス繊維(グラスファイバー)を不織布状に成形した濾材で構成される。微粒子の捕集は以下の4つのメカニズムの組み合わせで行われる。
粒径1μm以上の比較的大きな粒子は、空気の流れに追従できず繊維に直接衝突して捕集される。風速が速いほど効果が高い。
粒径0.3-1μm程度の粒子は、空気の流線に沿って移動するが、繊維表面に接触すると付着して捕集される。繊維径と粒子径の比率が重要な因子となる。
粒径0.1μm以下の超微粒子は、ブラウン運動(空気分子との衝突による不規則運動)により繊維に接触して捕集される。風速が遅いほど効果が高い。
帯電した粒子が繊維表面の静電気力により引き寄せられて捕集される。エレクトレットフィルター(永久帯電処理されたフィルター)ではこの効果が強化されている。
| メカニズム | 有効粒径 | 風速依存性 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 慣性衝突 | >1μm | 高速で効果大 | 大きな粒子向け |
| さえぎり | 0.3-1μm | 中程度 | 中間粒子向け |
| 拡散 | <0.1μm | 低速で効果大 | 超微粒子向け |
| 静電気 | 全範囲 | 影響小 | 補助的効果 |
0.3μmがHEPAフィルターの規格基準粒径である理由は、この粒径が上記メカニズムの「谷間」(MPPS: Most Penetrating Particle Size)に当たり、最も捕集が困難なサイズだからである。0.3μmより大きい粒子も小さい粒子も、実際にはより高い効率で捕集される。
| 等級 (EN 1822) | 捕集効率 (0.3μm) | 用途 |
|---|---|---|
| E10 | 85%以上 | 一般空調 |
| E11 | 95%以上 | 商業ビル空調 |
| E12 | 99.5%以上 | 病院一般エリア |
| H13 (True HEPA) | 99.95%以上 | 家庭用空気清浄機、病院手術室 |
| H14 | 99.995%以上 | 半導体クリーンルーム |
| U15 (ULPA) | 99.9995%以上 | 半導体最先端プロセス |
| U16 (ULPA) | 99.99995%以上 | 極限クリーン環境 |
家庭用空気清浄機で「HEPAフィルター」と表示される製品は、通常H13等級相当である。
家庭用空気清浄機のHEPAフィルターは、表面積を最大化するためにプリーツ(ひだ折り)加工されている。シャープ KI-SX100のフィルターは約3.6m²の濾材を直径約30cmの円筒形に折り込んでいる。プリーツの間隔は通常2-3mmで、間隔が狭いほど表面積は増えるが圧力損失も増加する。
一般的な空気清浄機は、以下の多層フィルター構成を採用している。
| メーカー | 機種 | HEPA寿命 | 交換費用 | 脱臭フィルター |
|---|---|---|---|---|
| シャープ | KI-SX100 | 約10年 | 約5,500円 | 約10年/3,500円 |
| ダイキン | MCK904A | 約10年 | 約6,800円 | 交換不要(再生式) |
| パナソニック | F-VXV90 | 約10年 | 約5,000円 | 約10年/4,200円 |
| ダイソン | HP09 | 約1年 | 約7,700円 | 一体型 |
| ブルーエア | 3450i | 約6ヶ月 | 約8,800円 | 一体型 |
ダイキンのTAFU(Tough And dUrable)フィルターは、従来のHEPAフィルターと同等の捕集性能(0.3μm粒子99.97%捕集)を持ちながら、撥水・撥油加工により10年後でも捕集効率が1.4倍維持されるとされる。通常のHEPAフィルターは経年劣化で繊維間にゴミが蓄積し、圧力損失が増加して風量低下を引き起こすが、TAFUフィルターはこの問題を軽減している。
ウイルス単体(0.02-0.3μm)はHEPAフィルターの規格粒径0.3μm以下であるが、実際には拡散メカニズムにより高い効率で捕集される。また、空気中のウイルスは多くの場合、飛沫(5μm以上)やエアロゾル(0.5-5μm)に付着して浮遊するため、HEPAフィルターで効果的に除去できる。CDCも医療施設でのHEPAフィルター使用を推奨している。
一部メーカーが「洗えるHEPAフィルター」を販売しているが、水洗いにより繊維構造が変形し、捕集効率が低下するリスクがある。JIS規格のTrue HEPAフィルターは基本的に使い捨てであり、水洗いは推奨されない。ダイキンの電気集塵式プレフィルターは水洗い可能だが、これはHEPAフィルターとは別の部品である。
ULPAフィルター(Ultra Low Penetration Air Filter)は0.12μmの粒子を99.9995%以上捕集する超高性能フィルターで、半導体製造のクリーンルームで使用される。家庭用空気清浄機には過剰性能であり、圧力損失が大きく消費電力が増加するため、HEPAフィルターが最適な選択である。