ITU-T B-ISDN として 1990 年代策定のセル交換型 WAN / LAN 規格。固定 53 バイトセル・QoS 確実保証で電話網 / 専用線向けに広く採用、IP バックボーン化で MPLS に置換され衰退した通信規格。
ATM(エーティーエム、Asynchronous Transfer Mode、非同期転送モード)は、ITU-T(国際電気通信連合 電気通信標準化部門)が B-ISDN(Broadband Integrated Services Digital Network、広帯域 ISDN)の主要技術として 1988-1994 年に策定したセル交換型通信規格です。「ATM」は銀行の Automated Teller Machine(現金自動預入払出機)とは別物で、混同を避けるため文脈で「ATM ネットワーク」「ATM 通信」と呼ばれます。
最大の特徴は、固定長 53 バイトのセル(5 バイトヘッダ + 48 バイトペイロード)を単位として通信する設計です。当時の Ethernet / Token Ring / FDDI が可変長フレームだったのに対し、ATM は固定長セルにすることでハードウェア交換処理を高速化(セルあたりの処理時間が一定)し、QoS(Quality of Service、品質保証)を確実に保証する設計を実現しました。CBR(Constant Bit Rate、固定ビットレート、音声 / 動画用)・VBR(Variable Bit Rate、可変)・ABR(Available Bit Rate)・UBR(Unspecified Bit Rate)の 4 つのトラフィッククラスを定義し、各クラスごとに帯域 / 遅延 / 揺らぎ / パケットロスの保証を提供しました。
1990 年代に「次世代統合通信(電話 / データ / 動画を 1 つのネットワークで統合)」の本命として通信業界の中心的話題となり、米 AT&T / Bell Labs / NEC / 富士通 / 日立 / Siemens / Cisco / Nortel 等が ATM 機器を大量に出荷しました。電話交換網バックボーン(SDH / SONET 上で ATM)・通信キャリアの専用線・WAN 接続・大企業 LAN(LANE = LAN Emulation、ATM 上で Ethernet 互換)で広く採用されました。
主な物理層は SDH/SONET(155Mbps OC-3、622Mbps OC-12、2.4Gbps OC-48、9.6Gbps OC-192)で、PDH(45Mbps DS3、6Mbps E2)も使われました。日本の NTT は INS-3000 系商用サービス・大手企業の専用線サービスで ATM を主軸に展開、世界的にも 1990 年代後半から 2000 年代前半に広く運用されていました。
しかし IP / Ethernet の急速な進化(Gigabit Ethernet 1998、10G Ethernet 2002)+ MPLS(Multi-Protocol Label Switching、1999、IETF RFC 3031)の登場で 2000 年代に主役を奪われました。MPLS は IP の上で QoS / トラフィックエンジニアリングを実現することで、ATM の利点を IP ネットワーク上で実現しつつ、機材コスト / 運用コストを 1/3-1/5 に削減しました。これにより通信キャリアは 2000 年代後半までに ATM バックボーンから IP/MPLS バックボーンへ大移行、現在は事実上衰退した規格となりました。
| 規格 | 単位 | QoS | 主な用途 | 結末 |
|---|---|---|---|---|
| ATM | 53 バイトセル | 強い保証 | 1990s 統合通信 BB | 衰退 |
| MPLS | 可変パケット + ラベル | 中程度保証 | 2000s+ IP BB |
| 主流継続 |
| Frame Relay | 可変フレーム | 弱い | 1990s 専用線 | 衰退 |
| SDH / SONET | TDM | 帯域固定 | 物理層 | 継続(BB 物理層) |
| 10G/100G Ethernet | 可変フレーム | 弱い | 2000s+ 一般 | 主流 |
ATM はキャリアグレードの WAN 規格のため、自作 PC ユーザーが直接機材を購入する対象ではありません。ATM が使われていた領域(WAN / 専用線)は現在 IP/MPLS / 光ファイバ専用線 / 5G 専用線に置き換わっており、コンシューマ用途では一切目にすることはありません。
中古市場では Cisco LightStream 等の ATM スイッチが ¥10,000-100,000 で稀に流通中ですが、稼働させるには対応 ATM カード + Win NT 4.0 / Linux 1990s 版 + 専用ドライバが必要で、実用稼働は事実上不可能です。コレクターの動態保存対象です。
Q1: なぜ 53 バイトという奇妙なセルサイズだったのですか? A: 米国 / カナダの音声トラフィック用 32 バイト + ヨーロッパの 64 バイトを政治的に妥協して 48 バイトとし、5 バイトヘッダを加えて合計 53 バイトとなった経緯があります。技術的最適化というより国際政治の産物でした。
Q2: ATM が衰退した最大の理由は何ですか? A: 主因は IP/MPLS の登場 + Gigabit/10G Ethernet の低価格化です。MPLS が ATM の QoS 利点を IP 上で実現し、Ethernet が機材コストを 1/3-1/5 に削減したため、キャリア・企業ともに ATM 維持の動機を失いました。
Q3: 現代で ATM が使われている分野はありますか? A: 一部の通信キャリアのレガシー専用線・B-ISDN サービス・古い ADSL / VDSL 系通信網の一部で残存していますが、新規敷設はありません。2030 年までにほぼすべて IP/MPLS / 光ファイバに置換される見込みです。