Compression Attached Memory Module 2。ノートPC向け新メモリ規格
ノートパソコンのメモリ(RAM)といえば、長らく「SO-DIMM」という規格が主流でした。しかし、近年の高性能化に伴い、より高速で省電力な「LPDDR5X」などのメモリが採用されるようになりました。ここで大きな問題となったのが、LPDDR5Xはマザーボードに直接ハンダ付けされる「オンボード仕様」であり、ユーザーが後から容量を増やしたり、故障時に交換したりすることが不可能であるという点です。
この「速度(オンボード)」か「拡張性(SO-DIMM)」かという二者択一のジレンマを解消するために誕生したのが、CAMM2 (Compression Attached Memory Module 2) です。
CAMM2は、メモリチップをマザーボードに「圧縮して押し付ける」という全く新しい構造を採用したメモリ規格です。これにより、オンボードメモリに匹敵する高速伝送を実現しながら、ユーザーによる物理的な交換・増設を可能にしました。自作PCユーザーやハイエンドノートPCユーザーにとって、2025年から2026年にかけてのメモリ選びにおける最大の注目点となるでしょう。
なぜ従来のSO-DIMMでは不十分だったのでしょうか。その理由は、メモリとCPUを結ぶ「配線」にあります。
SO-DIMMはスロットにメモリを差し込む形式であるため、信号がコネクタを経由して複雑な経路を辿ります。データ転送速度が 5600MT/s や 6400MT/s と高速になればなるほど、このコネクタ部分で電気的なノイズが発生しやすく、信号が減衰してしまいます。これを防ぐにはマザーボード側の設計を極めて複雑にする必要があり、物理的な限界に達していました。
CAMM2は、メモリモジュールをマザーボード上のコンタクトパッドに直接押し付け、ネジで固定する構造を採用しています。これにより、以下のメリットが生まれます。
具体的には、従来のSO-DIMMでは困難だった 8533MT/s やそれ以上の超高速動作を、交換可能なモジュール形式で実現することを目指しています。
CAMM2がどのような立ち位置にあるのか、従来のSO-DIMMおよびオンボードメモリ(LPDDR5X)と比較してみましょう。
| 比較項目 | SO-DIMM | オンボード (LPDDR5X) | CAMM2 |
|---|---|---|---|
| 交換・増設 | 可能(容易) | 不可能 | 可能(ネジ固定) |
| データ転送速度 |
| 中速(~6400MT/s程度) |
| 超高速(~8533MT/s以上) |
| 超高速(LPDDR5X相当) |
| 物理的な高さ | 高い | 極めて低い | 低い |
| 信号ノイズ | 発生しやすい | 非常に少ない | 非常に少ない |
| 実装コスト | 低い | 低い(量産時) | 中~高(次世代規格) |
| 主な用途 | 一般的なノートPC | 薄型軽量PC / AI PC | ハイエンド / ワークステーション |
CAMM2の導入により、以下のような数値スペックの向上が期待されています。
CAMM2の「2」という数字には重要な意味があります。初代CAMMは非常に限定的な仕様でしたが、CAMM2では汎用性と互換性が大幅に強化されています。
CAMM2の最大の特徴は、同じソケット形状でありながら、中身のメモリチップの種類(DDR5かLPDDR5Xか)を使い分けられる点にあります。
これにより、メーカーは同一のマザーボード設計を使いながら、「スタンダードモデルはDDR5搭載」「ハイエンドモデルはLPDDR5X搭載」といった柔軟な製品展開が可能になります。
CAMM2は特に、高いメモリ帯域を必要とする「AI PC」や「モバイルワークステーション」での採用が見込まれています。
CAMM2は単なる「新しい形」ではなく、PCの設計思想を変える規格です。特に2025年から2026年にかけて、以下のトレンドと共に普及が進むと考えられます。
最新のAI PC(Copilot+ PCなど)では、LLM(大規模言語モデル)をローカルで動作させるため、GPU/NPUが大量のメモリ帯域を消費します。オンボードメモリであれば高速ですが、AIモデルの巨大化に伴い「後からメモリを増やしたい」という需要が急増します。CAMM2は、この「AI時代の拡張性」というニーズに完璧に合致しています。
もちろん、課題もあります。
Q1: CAMM2は従来のSO-DIMMスロットに刺さりますか? A: いいえ、物理的な形状が全く異なります。SO-DIMMはスロットに差し込む形式ですが、CAMM2はマザーボードに直接密着させてネジで固定する形式です。CAMM2対応のマザーボードでなければ使用できません。
Q2: 自分でCAMM2メモリを交換することは難しいですか? A: 構造としては「ネジを外してモジュールを付け替える」だけなので、物理的な難易度は低いです。ただし、SO-DIMMのように「カチッとはめるだけ」ではなく、適切なトルクでネジを締める必要があるため、精密ドライバーなどの工具が必要です。
Q3: LPDDR5Xのオンボードメモリよりも速度が落ちることはありますか? A: 理論上、CAMM2はオンボードメモリと同等の信号整合性を実現するように設計されています。そのため、速度低下を心配する必要はほとんどなく、むしろ「交換可能でありながらオンボード級の速度が出る」ことがこの規格の最大の価値です。
CAMM2は、ノートPCにおける「パフォーマンス」と「柔軟性」の妥協点を完全に解消する画期的なソリューションです。
これまで「薄型軽量=メモリ交換不可」という諦めがありましたが、CAMM2の普及により、私たちは再び「自分好みにメモリをカスタマイズできるノートPC」を手に入れることができるでしょう。自作PCユーザーにとっても、ノートPCのアップグレードという新しい楽しみが生まれることになります。