ポータブルオシロスコープがアナログ信号をデジタルデータに変換する際の1秒あたりのサンプリング回数。単位はSa/s(Samples per second)で、信号波形の時間分解能を決定する。ナイキスト定理に基づき帯域幅の2倍以上が必要だが、実用的な波形再現には5〜10倍が推奨される。
ポータブルオシロスコープのサンプルレートとは、ADC(アナログ-デジタル変換器)が1秒間にアナログ信号を何回サンプリングするかを示す値であり、単位はSa/s(Samples per second)で表記される。100MHz帯域幅のポータブル機では500MSa/s〜1GSa/sが標準的なサンプルレートである。
1928年にHarry NyquistとClaude Shannonが理論化したサンプリング定理によれば、アナログ信号を劣化なくデジタル化するには、信号の最大周波数成分の2倍以上のサンプルレートが必要である。これを「ナイキストレート」と呼ぶ。
例えば100MHzの正弦波をサンプリングするには最低200MSa/sが必要である。ただし、これは正弦波を「理論上復元可能」な最低条件であり、矩形波やパルス信号の波形を画面上で正確に表示するには5〜10倍のサンプルレート(この場合500MSa/s〜1GSa/s)が実用的に必要となる。
ポータブルオシロスコープのサンプリング方式は大きく2種類に分かれる。
| 方式 | 原理 | 適用条件 | 実効サンプルレート |
|---|---|---|---|
| リアルタイムサンプリング | 1回のトリガーで全サンプルを取得 | 単発・非繰り返し信号に対応 | カタログ値そのまま |
| ETS(等価時間サンプリング) | 繰り返し信号を複数トリガーで合成 | 繰り返し信号のみ | カタログ値の10〜100倍 |
リアルタイムサンプリングは1回のトリガーイベントで波形全体をキャプチャする。単発現象(電源投入時の突入電流、ESD放電、グリッチ)の観測には必須の方式であり、カタログ記載のサンプルレートがそのまま適用される。
**ETS(Equivalent Time Sampling)**は、繰り返し信号に対して複数のトリガーサイクルにわたって少しずつタイミングをずらしたサンプルを蓄積し、高解像度の波形を合成する技術である。PicoScope 2208Bは1GSa/sのリアルタイムサンプルレートに加え、ETSモードで最大10GSa/s相当の実効サンプルレートを実現する。
サンプルレートとメモリ深度(レコード長)は密接に関連する。記録可能な時間は以下の式で計算される:
記録時間 = メモリ深度 / サンプルレート
例えば1GSa/sのサンプルレートで10Mptsのメモリ深度を持つ機種の最大記録時間は10ms(= 10M / 1G)である。長時間のイベントをキャプチャしたい場合は、サンプルレートを下げるか、メモリ深度の深い機種を選ぶ必要がある。
| メモリ深度 | 1GSa/s時の記録時間 | 100MSa/s時の記録時間 |
|---|---|---|
| 1Mpts | 1ms | 10ms |
| 10Mpts | 10ms | 100ms |
| 28Mpts | 28ms | 280ms |
| 100Mpts | 100ms | 1s |
Siglent SHS810Xの28Mpts深度は、ポータブル機としては例外的に深く、1GSa/sでも28msの波形を連続記録できる。
サンプルレートとは別に、「波形更新レート(Waveform Update Rate)」という指標がある。これは1秒間に画面上の波形を何回書き換えるかを示し、単位はwfm/s(waveforms per second)である。
高い波形更新レートは稀なグリッチや間欠的な異常の捕捉確率を高める。ベンチトップ型のKeysight InfiniiVisionは最大1,000,000 wfm/sの更新レートを実現するが、ポータブル機では100〜10,000 wfm/sが一般的である。
| 機種 | 帯域幅 | 最大サンプルレート | メモリ深度 | ETS対応 |
|---|---|---|---|---|
| PicoScope 2208B | 200MHz | 1GSa/s | 128Mpts | ○(10GSa/s) |
| Siglent SHS810X | 100MHz | 1GSa/s | 28Mpts | × |
| Keysight U1610A | 200MHz | 2GSa/s | 2Mpts | × |
| OWON HDS272S | 70MHz | 250MSa/s | 6Kpts | × |
| Analog Discovery 3 | 25MHz |
100MHzの矩形波を観測した場合、1GSa/sでは1周期あたり10サンプルで立ち上がりエッジの傾きが視認可能。250MSa/sでは2.5サンプル/周期となり、波形が階段状に表示されてエッジの詳細が失われる。10MHz以下の信号なら250MSa/sでも25サンプル/周期となり、実用上の問題はない。
2ch機の片方のチャンネルのADCをもう片方に割り当て、サンプルレートを倍増させる技術。PicoScope 2208Bは2ch各500MSa/sだが、1chモードではインターリーブにより1GSa/sを実現する。2ch同時使用時は各500MSa/sに低下するので注意が必要。
サンプルレートが高いとメモリを高速に消費するため、記録時間が短くなる。また、高サンプルレートのADCは消費電力が大きく、ポータブル機のバッテリー駆動時間に影響する。対象信号の周波数に合わせて適切なサンプルレートを選択し、不必要に高い設定は避けるのがバッテリー寿命の観点からも推奨される。
| 125MSa/s |
| 16Kpts〜1Gpts(PC) |
| × |
| Fluke 125B | 40MHz | 40MSa/s | 10Kpts | × |