レーザー距離計位相差方式(レーザーキョリケイイソウサホウシキ)
振幅変調されたレーザー光を連続照射し、照射波と反射波の位相差(ずれ角)から距離を算出する測定方式。短〜中距離で ±1.0 mm 以下の高精度を実現でき、室内計測・インテリア設計・精密加工の寸法検査などに広く用いられている。
レーザー距離計位相差方式とは
位相差(Phase Shift)方式は、一定周波数で振幅変調されたレーザー光を連続的に照射し、対象物からの反射波と照射波の位相差(ずれ角度)を検出して距離を算出する測定原理である。ToF 方式がパルスの「時間」を測るのに対し、位相差方式は連続波の「ずれ」を測るため、短距離(0.05 m〜)で極めて高い精度を達成できる。
測定原理の詳細
基本計算式
D = (φ / 2π) × (λ / 2) + n × (λ / 2)
- D: 対象物までの距離(m)
- φ: 位相差(rad)、0〜2π の範囲
- λ: 変調波長(m)= c / f(c は光速、f は変調周波数)
- n: 波長の整数倍数(あいまい性解消が必要)
たとえば変調周波数 150 MHz(λ = 2 m)で位相差が π/2(90°)の場合、距離は 0.25 m + n × 1.0 m となる。n の値を決定するために、複数の変調周波数を使い分ける「マルチ周波数法」が標準的に採用されている。
あいまい性の解消
位相差は 0〜2π の範囲しか識別できないため、変調波長の半分が「あいまいさのない最大測定距離」となる。これを解消するために、以下の手法が使われる。
| 手法 | 原理 | 精度への影響 | 採用例 |
|---|---|---|---|
| マルチ周波数法 | 複数の変調周波数で測定し、中国の剰余定理で n を決定 | 高精度維持 | Leica DISTO X4 |
| 粗測定+精密測定 | 低周波で概算距離を取得、高周波で精密化 | 高精度 | Bosch GLM 50 C |
| ToF ハイブリッド | ToF で粗い距離を取得し、位相差で精密化 | 最高精度 | Leica DISTO S910 |
位相差方式の技術的特長
高精度の秘密
位相差方式が短距離で高精度を実現できる理由は以下の通りである。
- 連続測定: パルス方式と異なり連続的にデータを取得するため、統計的な平均化(アベレージング)が容易。数百〜数千回の測定を瞬時に平均して雑音を低減する
- 位相検波の分解能: 現代の位相検波回路は 0.01°(約 0.003 rad)の位相差を識別でき、これは変調波長 2 m の場合 0.003 mm の距離分解能に相当する
- 温度補正: 内蔵温度センサーで大気屈折率を補正し、温度変化による誤差を ±0.1 mm 以下に抑制
変調周波数と精度の関係
| 変調周波数 | 変調波長 | あいまいなし距離 | 距離分解能(0.01° 分解能時) |
|---|---|---|---|
| 15 MHz | 20 m | 10 m | 0.028 mm |
| 150 MHz | 2 m | 1 m | 0.003 mm |
| 1.5 GHz | 0.2 m | 0.1 m | 0.0003 mm |
高周波ほど精度は上がるが、あいまい距離が短くなるトレードオフがある。実用的な民生機では 100〜200 MHz 帯の変調が主流。
代表的な位相差方式レーザー距離計
| メーカー | モデル | 測定範囲 | 精度 | 変調方式 | Bluetooth | 価格帯 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Leica | DISTO D2 New | 0.05〜100 m | ±1.5 mm | マルチ周波数 | 4.0 | ¥16,800 |
| Leica | DISTO X4 | 0.05〜150 m | ±1.0 mm | マルチ周波数 | 4.2 | ¥49,800 |
| Bosch | GLM 50 C | 0.05〜50 m | ±1.5 mm | 2周波数 | 4.0 | ¥14,800 |
| Bosch | GLM 50-27 CG | 0.05〜50 m | ±1.5 mm | マルチ周波数 | 5.0 | ¥12,800 |
| Stabila | LD 520 | 0.05〜200 m | ±1.0 mm | マルチ周波数 | 4.0 | ¥52,000 |
位相差方式が最適な用途
- 室内の内装工事: 壁間距離、窓枠寸法、天井高を ±1.0 mm で測定。0.05 m からの最短距離対応で家具内寸も測定可能
- インテリアコーディネート: 部屋の展開図作成。Bluetooth でスマホアプリに測定値を送信し、間取り図を自動生成
- 精密加工の寸法検査: 工作機械の加工部品の外形寸法を非接触で検査。CMM(三次元測定機)の補助として活用
- 不動産の面積測定: マンション内見時の専有面積測定。法的な登記面積の算出には測量士の資格が必要だが、概算把握に最適
よくある質問(FAQ)
Q1: 位相差方式と ToF 方式、どちらを選ぶべきですか? A: 室内・短距離(50 m 以下)の高精度測定なら位相差方式が最適。屋外・長距離(100 m 以上)や低反射率の対象物には ToF 方式が適している。両方の用途があるならハイブリッド方式の Leica DISTO S910 などが選択肢となる。
Q2: 位相差方式は屋外で使えますか? A: 使用可能だが、太陽光の影響で精度が低下する傾向がある。特に 30 m 以上の距離では外乱光の影響が大きくなる。屋外測定が多い場合は ToF 方式のモデルを推奨する。IP65 以上の防塵防水対応モデルなら雨天でも使用可能。
Q3: 位相差方式の「あいまい性」とは何ですか? A: 位相差は 0〜360°(0〜2π)の範囲しか識別できないため、変調波長の半分を超える距離では同じ位相差が複数の距離に対応する現象。これを解消するために複数の変調周波数で測定する「マルチ周波数法」が使われる。ユーザーが意識する必要はなく、機器内部で自動処理される。
まとめ
- 位相差方式は連続変調レーザーの位相ずれから距離を算出する方式で、0.05 m〜の近距離から ±1.0 mm 以下の高精度を実現
- マルチ周波数法であいまい性を解消し、実用的な測定範囲を 100〜200 m に拡大
- 室内測定・インテリア設計・精密検査など、短〜中距離の高精度計測で ToF 方式より優位
- Leica DISTO D2/X4、Bosch GLM 50 シリーズが代表的な位相差方式モデル