ラジオメトリック機能(サーマルカメラ)(ラジオメトリックキノウ)
ラジオメトリック機能は、サーマルカメラで撮影した赤外線画像の全ピクセルに温度数値データを付与し、後から任意の点・領域・ラインの温度を解析・記録・エクスポートできる機能。非ラジオメトリック機種では撮影後の温度再解析が不可能。
ラジオメトリック機能とは
ラジオメトリック(Radiometric)機能は、サーマルカメラが撮影した赤外線画像の各ピクセルに温度情報を数値データとして格納し、撮影後にPC上の専用ソフトウェアで任意の点・領域・プロファイルラインの温度を再解析できる機能である。非ラジオメトリック機種は画面表示のみで温度データが保存されないため、後からの定量解析が不可能。自作PCの発熱診断を記録・比較・報告する場合や、経時変化の追跡にはラジオメトリック対応機が必須となる。
ラジオメトリック vs 非ラジオメトリック
| 機能 | ラジオメトリック対応 | 非ラジオメトリック |
|---|---|---|
| リアルタイム温度表示 | ○ | ○ |
| ピクセル単位の温度記録 | ○ | × |
| 撮影後の温度再解析 | ○ | × |
| CSV/Excel温度エクスポート | ○ | × |
| 放射率の後変更 | ○ | × |
| 温度アラーム設定 | ○ | △(一部対応) |
| 時系列温度記録 | ○ | × |
| JPEG+温度データ保存 | ○(RJPEG) | × |
| 価格帯(256×192クラス) | 3.5~15万円 | 1~3万円 |
ラジオメトリック対応機は撮影画像にRAW温度マトリクスを埋め込むため、後から放射率や反射温度の設定を変更して再計算できるのが最大のメリットである。
データフォーマットと保存形式
RJPEG(Radiometric JPEG)
FLIR社が規格化したラジオメトリックJPEG形式で、標準JPEG画像にExifメタデータとして温度マトリクス・放射率・反射温度・カメラパラメータを埋め込む。
- 標準JPEG表示: 通常の画像ビューアでサーモ画像として閲覧可能
- 温度データ: FLIR Tools / FLIR Thermal Studio で開くと全ピクセルの温度を解析可能
- ファイルサイズ: 256×192で200~500KB程度
IS2(InfiRay形式)
InfiRay製カメラが使用する独自形式。InfiRay Analyzer Proで解析可能。
CSVエクスポート
多くの解析ソフトウェアはラジオメトリック画像から温度マトリクスをCSVとしてエクスポートできる。256×192の画像なら49,152個の温度値を含むCSVファイルが出力され、Excel・Python・MATLAB等で自由に解析可能。
行/列, 1, 2, 3, ..., 256
1, 28.3, 28.4, 28.5, ..., 29.1
2, 28.2, 28.3, 28.6, ..., 29.3
...
192, 31.5, 32.1, 33.8, ..., 35.2
解析ソフトウェア比較
| ソフトウェア | 対応メーカー | プラットフォーム | 価格 | 主な機能 |
|---|---|---|---|---|
| FLIR Thermal Studio | FLIR | Windows/Mac | 無料版あり(Starter) | スポット・領域・ライン解析、レポート生成 |
| FLIR Tools | FLIR | Windows/Mac/iOS/Android | 無料 | 基本解析・RJPEG編集 |
| InfiRay Analyzer Pro | InfiRay | Windows | 無料 | IS2解析・CSV出力・レポート |
| TOPDON TC App | TOPDON | iOS/Android | 無料 | 基本解析・クラウド保存 |
| HikMicro Analyzer | HikMicro | Windows | 無料 | ラジオメトリック解析・PDF出力 |
| IRndi | オープンソース | Python | 無料 | FLIR RJPEG→CSV変換、学術用途 |
| Thermimage(R パッケージ) | 汎用 | R | 無料 | FLIR RAW解析、統計処理 |
Python での解析例
FLIR RJPEG からの温度抽出:
# flirimageextractor ライブラリ使用
# pip install flirimageextractor
import flirimageextractor
import numpy as np
flir = flirimageextractor.FlirImageExtractor()
flir.process_image('thermal_pc_internal.jpg')
thermal = flir.get_thermal_np()
print(f'最高温度: {np.max(thermal):.1f}℃')
print(f'最低温度: {np.min(thermal):.1f}℃')
print(f'平均温度: {np.mean(thermal):.1f}℃')
# VRM領域の温度抽出(座標指定)
vrm_region = thermal[50:80, 100:150]
print(f'VRM最高温度: {np.max(vrm_region):.1f}℃')
自作PC診断での活用パターン
パターン1: エアフロー最適化
PC内部のサーマル画像を定点撮影し、ファン回転数・ファン位置を変えた前後で温度分布を比較する。ラジオメトリックデータなら同一座標の温度差を定量比較可能。
パターン2: VRM発熱トレンド記録
高負荷ベンチマーク(Cinebench R24・Prime95等)実行中に一定間隔でサーマル撮影し、VRM温度の時系列変化を記録。ラジオメトリック動画対応機ではリアルタイムCSV記録も可能。
パターン3: サーマルペースト塗布評価
CPUクーラーを外した直後のヒートスプレッダ表面温度分布をラジオメトリック撮影し、ペーストの広がりムラを温度勾配で定量化する。均一なら±2℃以内、ムラがあれば5~10℃の温度差が生じる。
パターン4: 経年劣化モニタリング
同一条件(同じ負荷・同じ室温・同じカメラ位置)で月次撮影し、ラジオメトリックデータの温度推移を追跡。ファンのベアリング劣化やサーマルペースト乾燥による温度上昇を早期発見できる。
ラジオメトリック動画
一部の高機能機種はラジオメトリック動画(各フレームの全ピクセルに温度データ付き)に対応する。
| 機種 | 動画解像度 | フレームレート | 記録形式 |
|---|---|---|---|
| FLIR C5 | 160×120 | 8.7Hz | RJPEG連番 |
| FLIR T865 | 640×480 | 30Hz | SEQ形式 |
| InfiRay P2 Pro | 256×192 | 25Hz | IS2動画 |
| TOPDON TC004 | 256×192 | 25Hz | 独自形式 |
25Hz以上のフレームレートがあれば、ベンチマーク開始から温度安定までの過渡特性(thermal transient)を秒単位で記録できる。
よくある質問(FAQ)
Q1: ラジオメトリック非対応のカメラでは温度データは一切残りませんか? A: 画面に表示されたスポット温度(1~3点)がスクリーンショットとして画像に焼き込まれることはあるが、ピクセル単位の温度マトリクスは保存されない。後から「この部品は何℃だったか」と調べることはできず、撮影時の画面情報が全て。
Q2: ラジオメトリック画像の放射率を後から変更するとどうなりますか? A: RAW温度データから再計算されるため、撮影後でもε=0.95→ε=0.55のように変更して金属面の正確な温度を取得可能。これは撮影時に放射率を間違えた場合のリカバリに非常に有効。
Q3: CSV温度データをExcelで処理するコツは? A: 条件付き書式でヒートマップ表示すると温度分布が直感的にわかる。256列×192行のデータを「冷色→暖色」グラデーションに設定すれば、サーマル画像に近い可視化が可能。MAX/MIN/AVERAGE関数で領域統計を取り、ベンチマーク前後のシート間で差分を算出するのが定番手法。
Q4: ラジオメトリック対応の最安製品は何ですか? A: 2026年現在、InfiRay P2 Pro(256×192、約35,000円)がラジオメトリック対応の最安クラス。スマホUSB-C接続型で、InfiRay Analyzer Proによる後解析・CSV出力に完全対応している。
まとめ
- ラジオメトリック機能は全ピクセルの温度データを保存し後解析を可能にする
- 非ラジオメトリック機では撮影後の温度再解析・放射率変更が不可能
- RJPEG(FLIR)/IS2(InfiRay)がデータ保存の主要フォーマット
- CSV出力でPython/Excel/MATLABによる自由な解析が可能
- 自作PCの継続的な発熱管理にはラジオメトリック対応機が必須