サーマルペースト(サーマルペースト)
CPUやGPUとヒートシンクの間に塗布する熱伝導性のペースト状素材。金属表面の微細な凹凸を埋めて空気層を排除し、発熱体からヒートシンクへの熱伝達効率を最大化する。グリスとも呼ばれる。
サーマルペーストとは
サーマルペースト(Thermal Paste)は、CPUやGPUなどの発熱素子とヒートシンク(クーラー)の接触面に塗布する熱伝導性のペースト状コンパウンドである。「CPUグリス」「熱伝導グリス」とも呼ばれる。金属表面は一見平滑に見えても、ミクロレベルでは数μm〜数十μmの凹凸(表面粗さ)があり、ヒートシンクを直接載せただけでは実効接触面積は全体の1-5%程度しかない。残りの95%以上は空気(熱伝導率0.026 W/m·K)で満たされ、これが熱抵抗の主因となる。
サーマルペーストはこの微細な凹凸を充填し、空気層を熱伝導率の高い素材(1-15 W/m·K)に置換することで、接触熱抵抗を劇的に低減する。
サーマルペーストの種類
シリコンベース
最も一般的で安価なタイプ。シリコンオイルに酸化亜鉛や酸化アルミニウムなどのフィラーを混合したもの。熱伝導率は1-5 W/m·K程度。塗りやすく、導電性がないためはみ出しても短絡の心配がない。初心者に最適だが、高発熱CPUでは性能が不足する場合がある。
セラミックベース
セラミック微粒子(酸化アルミニウム、窒化ホウ素など)をベースにしたタイプ。熱伝導率は3-8 W/m·K程度。非導電性で安全性が高く、中程度の冷却性能を提供する。Arctic MX-6やNoctua NT-H2がこのカテゴリの代表製品である。
金属ベース(銀・銅配合)
銀やアルミニウムの微粒子を高濃度で配合したタイプ。熱伝導率は8-15 W/m·K と最高クラスの性能を発揮する。Thermal Grizzly Kryonaut(12.5 W/m·K)が代表的。ただし一部製品は微弱な導電性を持つため、基板上にはみ出さないよう注意が必要。
液体金属
ガリウム合金(ガリウム・インジウム・スズの共晶合金)を使用した最高性能のTIM。熱伝導率は40-80 W/m·K と通常のペーストの5-10倍に達する。Thermal Grizzly Conductonaut(73 W/m·K)が最も有名。導電性が非常に高く、アルミニウム製ヒートシンクとは化学反応(アルミの腐食)を起こすため、銅製またはニッケルメッキのヒートベースにのみ使用可能。
主要製品の比較
| 製品名 | メーカー | タイプ | 熱伝導率 (W/m·K) | 容量 | 参考価格 |
|---|---|---|---|---|---|
| MX-6 | Arctic | セラミック | 4.0 | 4g | ¥800 |
| NT-H2 | Noctua | ハイブリッド | 8.9 | 3.5g | ¥1,200 |
| Kryonaut | Thermal Grizzly | 金属配合 | 12.5 | 1g | ¥1,500 |
| KPx | Kingpin Cooling | 金属配合 | 10.0 | 3g | ¥1,800 |
| Conductonaut | Thermal Grizzly | 液体金属 | 73.0 | 1g | ¥2,500 |
| IC Diamond | Innovation Cooling | ダイヤモンド | 4.5 | 1.5g | ¥1,300 |
正しい塗り方
サーマルペーストの塗布方法は長年議論の的だが、実測データに基づく推奨は以下の通りである。
中央一点盛り法(推奨)
CPUのIHS(Integrated Heat Spreader)中央に米粒〜小豆大のペーストを置き、ヒートシンクの圧力で自然に広げる方法。Gamers Nexusの実測では、ほとんどのCPUで最も均一な展延と最良の温度結果を示した。Intel 第12-14世代のような長方形IHSでは、中央に短い一本線を引く「ライン法」がやや有利な場合もある。
塗り広げ法
ヘラやカードでIHS全面に薄く均一に塗り広げる方法。気泡が入りやすく、均一性の確保が難しいため、初心者には推奨しない。液体金属の場合は唯一の推奨方法で、綿棒で薄く塗り広げる。
適量の目安
- Intel LGA1700(37.5×45mm): 米粒大(直径3-4mm)
- AMD AM5(40×40mm): 小豆大(直径4-5mm)
- ノートPC用: 米粒の半分程度
過剰塗布はヒートシンクの固定圧で余分が押し出されるため問題ないが、不足はエアポケットの原因となる。迷ったら多めに塗る方が安全である。
塗り替え時期と劣化
サーマルペーストは経年劣化する。シリコンベースは2-3年で硬化・乾燥が始まり、熱伝導率が低下する。高品質なセラミック/金属ベース(Kryonaut、NT-H2)は5-8年の実用寿命がある。液体金属は理論上劣化しないが、銅表面との合金化(ステイン)が進行する。
塗り替えの目安として、CPU温度が新品時より5-10℃以上上昇した場合は劣化を疑うべきである。
FAQ
サーマルペーストを塗らないとどうなりますか?
CPU温度が20-30℃以上上昇し、高負荷時にサーマルスロットリングが発生して性能が大幅に低下する。最悪の場合、保護機能がないシステムではCPUの熱損傷につながる可能性がある。少量でも塗布されていれば効果があるため、省略は絶対に避けるべきである。
液体金属は通常のペーストより何度くらい冷えますか?
一般的なセラミックペースト比で3-8℃、高品質金属ペースト(Kryonaut)比で1-5℃程度の温度低下が見込める。ただし導電性・アルミ腐食・塗布難度のリスクを考慮すると、一般ユーザーにはKryonautクラスの金属ペーストで十分である。液体金属はオーバークロッカーや殻割り(デリッド)ユーザー向け。
古いペーストの除去方法は?
無水イソプロピルアルコール(IPA 99%以上)をコーヒーフィルターやマイクロファイバークロスに含ませ、IHS表面を拭き取る。液体金属のステイン(銅表面の変色)は完全には除去できないが、性能に影響しないため気にしなくてよい。ティッシュペーパーは繊維が残るため使用しない。