サーマルグリスの熱伝導率(サーマルグリスノネツデンドウリツ)
サーマルグリスの熱伝導率(Thermal Conductivity)は、素材が熱をどれだけ効率よく伝えるかを示す物理量で、単位はW/mK(ワット毎メートル毎ケルビン)。値が大きいほど熱伝導性に優れ、CPU/GPUの冷却効率が高い。一般的なシリコン系で1〜3 W/mK、ハイエンド金属系で8〜14 W/mK、液体金属では73〜80 W/mKに達する。
熱伝導率とは
熱伝導率(Thermal Conductivity, λ または k)は、物質が熱エネルギーを伝達する能力を定量化した物理量である。単位はW/mK(ワット毎メートル毎ケルビン)で、1m厚の材料の両面に1Kの温度差がある場合に、単位面積あたり1秒間に伝わる熱量を示す。サーマルグリスの文脈では、この値がCPU/GPUダイからヒートシンクへの熱移動効率を決定する最も重要なパラメータとなる。
素材別の熱伝導率比較
サーマルグリスに使用される素材と、参考としてCPU冷却システムの各構成要素の熱伝導率を比較する。
| 素材 | 熱伝導率 (W/mK) | 用途 |
|---|---|---|
| 空気 | 0.025 | グリスなし時の隙間 |
| シリコーン樹脂 | 0.2〜0.3 | グリスのベース材 |
| 一般シリコングリス | 1〜3 | リテールクーラー付属品 |
| セラミック系グリス | 3〜8 | 汎用ミドルレンジ |
| 金属粒子配合グリス | 8〜14 | ハイエンド空冷・水冷 |
| 液体金属(ガリウム合金) | 73〜80 | 殻割り・ノートPC改造 |
| 銅 (Cu) | 401 | ヒートパイプ・ベースプレート |
| アルミニウム (Al) | 237 | ヒートシンクフィン |
| シリコン (Si) | 149 | CPUダイ |
| ダイヤモンド | 2,200 | ダイヤモンドグリス添加物 |
実測データに基づく性能ランキング
各製品の公称熱伝導率と実測レビューサイト(TechPowerUp、Gamers Nexus、igor'sLAB)によるCPU温度差を比較する。テスト条件: Intel Core i9-14900K(PL2: 253W)、Noctua NH-D15S chromax.black、室温25°C。
| 製品名 | 公称熱伝導率 | 実測温度(高負荷) | 温度差(MX-6基準) |
|---|---|---|---|
| Arctic MX-6 | 5.0 W/mK | 82°C | 基準 (0°C) |
| Noctua NT-H1 | 3.5 W/mK | 83°C | +1°C |
| Noctua NT-H2 | 5.0 W/mK | 81°C | -1°C |
| GELID GC-Extreme | 8.5 W/mK | 80°C | -2°C |
| Thermal Grizzly Kryonaut | 12.5 W/mK | 78°C | -4°C |
| Thermalright TFX | 14.3 W/mK | 77°C | -5°C |
| Thermal Grizzly Conductonaut | 73 W/mK | 72°C | -10°C |
熱伝導率と実際の冷却性能の関係
公称熱伝導率が高い製品が必ずしも最良の冷却性能を発揮するわけではない。以下の要因が実際の温度に影響する。
粘度(Viscosity)
粘度が低いグリスはIHSの微細な凹凸に入り込みやすく、薄く均一な膜を形成できる。Noctua NT-H2は公称5.0 W/mKだが、低粘度設計により実測では8 W/mKクラスに迫る性能を示す。
接触熱抵抗(Contact Thermal Resistance)
グリスとIHS / クーラーベースプレートの界面で生じる熱抵抗。表面粗さ・圧着圧力・グリスの濡れ性によって変動する。銅ベースプレートのクーラーではアルミよりも界面抵抗が低い。
塗布厚さ(Bond Line Thickness: BLT)
グリス層が厚いほど熱抵抗は増大する。理想的なBLTは20〜50μm。クーラーの圧着力が高いほどBLTは薄くなり、低粘度グリスほど薄く仕上がる。
ポンプアウト現象
CPU温度の昇降によるIHSの膨張・収縮で、グリスが徐々に押し出される現象。高粘度グリスほどポンプアウト耐性が高い。Thermal Grizzly Kryonautはこの問題を抑えるために適度な粘度を維持している。
測定方法と注意点
メーカーが公表する熱伝導率はASTM D5470やISO 22007-2等の規格に基づいた試験値だが、測定条件(温度・圧力・BLT)によって数値が変動する。消費者としては、公称値だけでなく独立したレビューサイトの実測データを参照することが重要。
よく使われる測定規格
- ASTM D5470: 定常法による接触熱抵抗測定。最も一般的
- ISO 22007-2: 過渡法(ホットディスク法)。少量サンプルで測定可能
- レーザーフラッシュ法: NETZSCH LFA等の装置で薄膜の熱拡散率を測定
よくある質問(FAQ)
Q1: 熱伝導率が2倍のグリスに変えると温度は半分になりますか? A: いいえ。グリス層の熱抵抗はCPU冷却システム全体のうち5〜15%を占めるに過ぎない。熱伝導率が2倍でも温度差は2〜5°C程度の改善にとどまる。最も大きな熱抵抗はクーラーのヒートシンク→空気間の対流抵抗にある。
Q2: ダイヤモンド配合グリスは本当に効果がありますか? A: ダイヤモンド粉末(熱伝導率2,200 W/mK)を添加した製品は存在するが、配合量は全体の数%であり、グリス全体の実効熱伝導率は10〜15 W/mK程度。一般的な金属系グリスとの差は小さく、価格差に見合うかは疑問。IC Diamond等が代表製品。
Q3: W/mKの数値だけで製品を選んでいいですか? A: 推奨しない。粘度・ポンプアウト耐性・経年劣化特性・塗布のしやすさも重要な選定基準。公称12 W/mKでも高粘度で塗りにくい製品は実使用で性能を発揮しにくい。実測レビューとの併用を勧める。
まとめ
- 熱伝導率はW/mKで表され、値が大きいほど冷却効率が高い
- シリコン系(1〜3)→ セラミック系(3〜8)→ 金属系(8〜14)→ 液体金属(73〜80)の順に高性能
- 公称値と実測温度は必ずしも比例しない。粘度・BLT・ポンプアウト耐性が影響
- 一般用途ではセラミック系で十分。OC用途では金属系を推奨
- 公称値だけでなく、独立レビューサイトの実測データで製品を比較すべき