液体金属サーマルコンパウンド(エキタイキンゾクサーマルコンパウンド)
液体金属サーマルコンパウンド(Liquid Metal TIM)は、ガリウム(Ga)・インジウム(In)・スズ(Sn)の合金を主成分とする熱伝導素材。熱伝導率73〜80 W/mKと通常のサーマルグリス(1〜14 W/mK)を圧倒的に上回る性能を持つが、導電性・アルミニウム腐食性・塗布難度の高さから上級者向けとされる。ノートPCの殻割りやハイエンドOCでの採用が多い。
液体金属サーマルコンパウンドとは
液体金属サーマルコンパウンドは、室温で液体状態を維持するガリウム合金を使用した超高性能TIM(Thermal Interface Material)である。代表的な組成はガリンスタン(Ga68.5%・In21.5%・Sn10%)で、融点は-19°Cと極めて低く室温で完全な液体として存在する。Thermal Grizzly Conductonaut(73 W/mK)が市場で最も普及しており、ASUS ROGシリーズの一部ノートPCでは工場出荷時から液体金属が使用されている。
液体金属の仕組みと原理
合金組成
液体金属TIMの主成分はガリウム(Ga)を基本とした三元共晶合金である。
| 元素 | 含有率 | 融点 | 熱伝導率 | 役割 |
|---|---|---|---|---|
| ガリウム (Ga) | 60〜70% | 29.8°C | 40.6 W/mK | 主成分・低融点化 |
| インジウム (In) | 20〜25% | 156.6°C | 81.8 W/mK | 流動性向上 |
| スズ (Sn) | 8〜12% | 231.9°C | 66.8 W/mK | 表面張力調整 |
| 合金全体 | 100% | -19°C | 73〜80 W/mK | 超高熱伝導TIM |
なぜ通常グリスの10倍の性能があるのか
通常のサーマルグリスはシリコーン樹脂に金属酸化物粒子を分散させた懸濁液で、粒子間やベース樹脂の熱抵抗がボトルネックとなる。液体金属は素材自体が連続的な金属体であり、粒子界面が存在しないため熱伝導効率が飛躍的に高い。
代表製品の比較
| 製品名 | 熱伝導率 | 容量 | 実売価格 | 付属品 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| Thermal Grizzly Conductonaut | 73 W/mK | 1g | ¥1,500 | シリンジ・綿棒・IPA | 最も普及。塗布しやすい |
| Cooler Master CryoFuze Violet | 液体金属パッド | 40×40mm | ¥2,000 | パッド3枚 | パッド型で扱いやすい |
| Phobya Liquid Metal Compound | 32 W/mK | 1.5g | ¥1,800 | シリンジ | エントリー液体金属 |
| Coollaboratory Liquid Ultra | 38.4 W/mK | 0.15g | ¥1,200 | 綿棒・クリーニングセット | 殻割り定番 |
使用上のリスクと注意事項
アルミニウム腐食
液体金属のガリウムはアルミニウムと激しく反応し、脆化・浸食を引き起こす。アルミ製ヒートシンクやアルミベースプレートのクーラーには絶対に使用してはならない。銅またはニッケルメッキされたクーラーベースプレートのみ対応。
対応クーラー例:
- 使用可: Noctua NH-D15(ニッケルメッキ銅)、be quiet! Dark Rock Pro 5(ニッケルメッキ銅)、EK Quantum水冷ブロック(銅)
- 使用不可: サイズ 虎徹 Mark III(アルミトップ・銅ベース → ベースは可だがはみ出し注意)、安価なタワークーラーのアルミフィン部
導電性による短絡リスク
液体金属は優れた電気導体であり、CPUソケットやマザーボード上の電子部品に接触すると短絡(ショート)する。塗布前にソケット周辺をマスキングテープやマニキュア(絶縁コーティング)で保護することが必須。
IHSへの染み込み(ステイニング)
液体金属は銅やニッケルの表面に拡散浸透し、灰色〜黒色の染みを残す。これは化学的な合金化(ガリウムが銅格子に拡散)であり、性能への影響は軽微だが外観は変化する。一度ステイニングが生じると完全には除去できない。
塗布手順(上級者向け)
- 準備: ニトリル手袋着用、CPUソケット周辺をマスキングテープで保護
- 旧グリス除去: IPA 99%で徹底清掃。旧液体金属の除去にはファイバーグラスペン(ガラス繊維研磨棒)を使用
- 塗布: Conductonaut付属シリンジから米粒大を IHS中央に置く
- 薄く伸ばす: 付属の綿棒で薄く均一に伸ばす。液体金属は表面張力が高いため、最初は弾くが根気よく繰り返すと濡れ広がる
- クーラー装着: ベースプレートにも薄く塗布(オプション)。銅/ニッケルメッキを確認
- 動作確認: 起動後にHWiNFO64等で温度モニタリング。通常グリスから10〜15°Cの改善を期待
よくある質問(FAQ)
Q1: 液体金属は殻割り以外でも使えますか? A: はい。IHS上面とクーラーベースプレートの間(通常のグリスと同じ位置)にも使用可能。殻割り(IHSを外してダイに直接塗布)ほどの効果はないが、通常グリスから5〜10°Cの改善が見込める。ただしアルミクーラー不可・導電性リスクの対策は必須。
Q2: 液体金属の寿命はどのくらいですか? A: 5年以上。通常のサーマルグリスが2〜3年で乾燥・硬化するのに対し、液体金属は金属合金であるため蒸発や乾燥が起こらない。ASUS ROGノートPCの公式データでは「製品寿命期間中の塗り替え不要」とされている。
Q3: 液体金属を塗った後に通常グリスに戻せますか? A: 可能だが、ステイニング(染み)は残る。IPA + ファイバーグラスペンで液体金属を除去し、表面を平滑化した後に通常グリスを塗布する。性能には影響しないが、IHSの外観は元に戻らない。
まとめ
- 液体金属はガリウム合金で熱伝導率73〜80 W/mK、通常グリスの10倍以上の性能
- アルミニウム腐食と導電性による短絡リスクがあり上級者向け
- Thermal Grizzly Conductonautが最も普及した定番製品
- 殻割りとの組み合わせで最大20°C以上の温度低減が可能
- 5年以上の長寿命で、塗り替え頻度が極めて低い