マイクロカプセル内の帯電粒子を電界で移動させることで画像を表示する反射型ディスプレイ技術。E Ink Corporation(元MIT Media Lab)が開発し、電子書籍リーダーや電子棚札、デジタルサイネージなどに広く採用されている。表示の保持に電力が不要な双安定性が最大の技術的特徴。
E-Ink(Electronic Ink)は、米国E Ink Corporation が MIT Media Lab の研究成果をもとに商用化した反射型ディスプレイ技術である。1997年の創業以来、電子ペーパーディスプレイ市場で事実上の独占的地位を保っており、電子書籍リーダー、スマートウォッチ文字盤、電子棚札(ESL)、バス停案内板など幅広い分野で採用されている。
E-Inkの表示原理は**電気泳動(Electrophoresis)**に基づいている。
各マイクロカプセル内には透明な液体が封入されており、その中に正に帯電した白色の酸化チタン(TiO2)粒子と負に帯電した黒色のカーボン粒子が分散している。
| 電極状態 | 白色粒子の移動 | 黒色粒子の移動 | 表示 |
|---|---|---|---|
| 背面が正極 | 前面へ移動 | 背面へ移動 | 白 |
| 背面が負極 | 背面へ移動 | 前面へ移動 | 黒 |
| 電圧なし | 現在位置を保持 | 現在位置を保持 | 変化なし |
前面に移動した粒子が外光を反射(白)または吸収(黒)することで、紙に印刷されたインクと同様の視認性を実現する。
E Ink社はパネル技術を世代ごとにブランド名で展開している。
| 世代 | 名称 | 発表年 | コントラスト比 | 解像度 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1世代 | Vizplex | 2007 | 7:1 | 167ppi | 初代Kindle搭載 |
| 第2世代 | Pearl | 2010 | 10:1 | 167ppi | Kindle 3世代目に採用 |
| 第3世代 | Carta | 2013 | 15:1 | 300ppi | 現在の白黒標準 |
| 第3.5世代 | Carta 1200 | 2021 | 15:1 |
E-Inkの最も重要な技術的特性は双安定性である。マイクロカプセル内の帯電粒子は、電圧を除去しても移動せずにその位置を保持する。これにより以下のメリットが生まれる。
| ディスプレイ | 10.3インチ静止画表示時の消費電力 |
|---|---|
| E-Ink | 0mW(書換時のみ約26mW) |
| IPS液晶 | 約2,500mW |
| OLED | 約1,500mW(白表示時) |
E-Inkの弱点は応答速度の遅さである。用途に応じて複数の表示モードが用意されている。
| モード | 書換時間 | 階調 | ゴースト | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| GC16(Full Refresh) | 450ms | 16階調 | なし | ページめくり |
| DU(Direct Update) | 120ms | 2値 | 少 | テキスト入力 |
| A2(Animation) | 120ms | 2値 | 多 | 簡易アニメーション |
| Regal | 300ms | 16階調 | 少 | 高品質部分更新 |
E-Ink技術は電子書籍リーダー以外にも急速に普及している。
| 分野 | 用途例 | 採用理由 |
|---|---|---|
| 電子棚札(ESL) | スーパー/家電量販店の価格表示 | 無線更新・電池5年寿命 |
| デジタルサイネージ | バス停・駅案内板 | 太陽光下の視認性・低電力 |
| スマートウォッチ | Garmin Instinct 2等 | 常時表示・バッテリー数週間 |
| スマートフォン | Hisense A9(背面E-Ink) | 読書用セカンドスクリーン |
| IoTセンサー | 温湿度計・在室表示 | 電池駆動で年単位動作 |
用途が根本的に異なるため置き換えは起きない。E-Inkは「紙の代替」、OLEDは「動画・カラーの高品質表示」が得意分野。太陽光下の視認性と超低消費電力ではE-Inkが圧倒的に優位であり、電子書籍・棚札・サイネージではE-Inkの独壇場が続く。
Gallery 3(ACeP方式)で300ppiのフルカラー表示が実現したが、色域はsRGBの約30-40%程度で液晶・OLEDとは大きな差がある。マンガの白黒表示は十分だが、写真や動画の色再現性では依然として液晶が優位。
E Ink社の公称値では書換回数が約100万回以上。1日50回のページめくりで約55年に相当するため、実用上は製品本体の寿命が先に来る。マイクロカプセルの劣化は極めて緩やかである。
| 300ppi |
| 高速書換・低ゴースト |
| 第4世代 | Carta 1300 | 2023 | 15:1 | 300ppi | さらなる応答速度改善 |
| カラー初代 | Triton | 2010 | - | 低い | 初のカラーE-Ink(4,096色) |
| カラー2世代 | Kaleido | 2019 | - | 100ppi(カラー) | カラーフィルタ方式 |
| カラー3世代 | Kaleido 3 | 2022 | - | 150ppi(カラー) | 色再現性向上 |
| カラー最新 | Gallery 3 | 2023 | - | 300ppi(カラー) | ACeP技術・フルカラー |