サーマルコンパウンド(サーマルコンパウンド)
サーマルペーストの別称で、熱伝導性フィラーとベース材を混合した複合素材の総称。ペースト状だけでなく、接着剤タイプやパテタイプなど複数の形態が存在し、電子機器の放熱設計で広く使用される。
サーマルコンパウンドとは
サーマルコンパウンド(Thermal Compound)は、熱伝導性のフィラー材料をベース材に分散させた複合素材(コンパウンド)の総称である。「サーマルペースト」がPC自作分野で最もよく使われる呼称だが、エレクトロニクス業界全体では「サーマルコンパウンド」の方がフォーマルな用語として使用される。
形態別の分類
サーマルコンパウンドは用途に応じて複数の形態で提供される。
ペースト/グリスタイプ
最も一般的な形態で、注射器型のシリンジに充填されて販売される。CPU/GPU用途のほとんどがこのタイプ。塗布後にヒートシンクを取り外して再塗布できるリワーカビリティが特徴。
接着タイプ(サーマルアドヒーシブ)
熱伝導性と接着性を兼ね備えたエポキシ系コンパウンド。ヒートシンクを固定する機械的手段(クリップ、ネジ)がない場合に使用する。Arctic Silver Thermal Adhesive が代表的。硬化後は取り外しが困難なため、一度の施工で完成する設計に限定される。熱伝導率は通常のペーストより低い(2-4 W/m·K程度)。
パテタイプ
粘土状の素材を手で成形して貼り付けるタイプ。不規則な形状の部品間の隙間充填に適する。ヒートシンクの取り付けが困難な場所(VRM、メモリチップ周辺)で使用されることがある。
相変化材料(PCM)
室温では固体シート状だが、動作温度(40-50℃程度)に達すると軟化して液状に近い状態になり、接触面の凹凸を充填する。Honeywell PTM7950 が近年注目を集めており、ノートPC メーカーが純正採用するケースが増えている。初期状態の熱抵抗が高いが、数回のヒートサイクル後にペースト並みの性能を発揮する。
フィラー材料の比較
| フィラー | 熱伝導率 (W/m·K) | 導電性 | コスト | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| 酸化亜鉛 (ZnO) | 25-50 | なし | 低 | 汎用ペースト |
| 酸化アルミニウム (Al₂O₃) | 30-40 | なし | 低 | セラミックペースト |
| 窒化アルミニウム (AlN) | 150-200 | なし | 中 | 高性能ペースト |
| 窒化ホウ素 (BN) | 30-400 | なし | 中 | 高性能・非導電 |
| 銀 (Ag) | 429 | あり | 高 | 銀ペースト |
| ダイヤモンド粉末 | 900-2300 | なし | 高 | 最高性能ペースト |
フィラーの粒径は性能に大きく影響する。粒径が小さいほど(ナノ粒子レベル)微細な凹凸への充填性が向上するが、製造コストが上昇する。最適な粒径分布は2-20μmの範囲で、複数サイズを混合するとパッキング密度が上がり熱伝導率が向上する。
産業用途
PC自作以外にも、サーマルコンパウンドは幅広い電子機器で使用されている。
- LED照明: パワーLEDの放熱基板への接合。長期信頼性(50,000時間以上)が要求される
- パワーエレクトロニクス: IGBT モジュール、パワー MOSFET のヒートシンク接合。高温耐性(200℃以上)が必要
- 自動車電子機器: ECU、インバーターの放熱。振動耐性と温度サイクル耐性が重要
- 通信基地局: 5G基地局の高出力アンプの放熱。長期安定性が求められる
- データセンター: サーバーCPU/GPUの大規模放熱。メンテナンス頻度を下げるため長寿命品が好まれる
性能評価指標
サーマルコンパウンドの性能は以下の指標で評価される。
- 熱伝導率 (W/m·K): 素材そのものの熱伝導能力。値が大きいほど良い
- 熱抵抗 (℃·cm²/W): 実際の接合部における熱の通りにくさ。値が小さいほど良い。塗布厚さに依存するため、熱伝導率単体より実用的な指標
- 粘度 (Pa·s): 塗布のしやすさ。低粘度は展延性が高いが垂れやすく、高粘度は形状保持性が良いが塗りにくい
- ポンプアウト耐性: ヒートサイクル(温度の上昇と下降の繰り返し)によってペーストが接触面から押し出される現象への耐性
FAQ
サーマルコンパウンドとサーマルペーストの違いは何ですか?
実質的に同じものを指す。サーマルコンパウンドはエレクトロニクス業界のフォーマルな用語で、ペースト・接着剤・パテなど全形態を包含する上位概念。サーマルペーストはPC自作分野で最もよく使われる呼称で、シリンジから塗布するペースト状のコンパウンドを特に指す。
相変化材料(PCM)はペーストより優れていますか?
長期安定性ではPCMが優位である。ペーストは2-5年で乾燥・硬化が進行するが、PCMは固体⇔液体の相変化を繰り返すため、ポンプアウトや乾燥が起きにくい。ただし初期性能はハイエンドペースト(Kryonaut等)の方が高い場合が多い。ノートPCなどメンテナンスが困難な用途ではPCM、定期的に塗り替えるデスクトップPCではペーストが適する。
導電性のあるサーマルコンパウンドは危険ですか?
銀ペーストの場合、微弱な導電性はあるものの、通常の使用量(IHS上に適量)では短絡のリスクは極めて低い。ただし液体金属(ガリウム合金)は完全な導体であり、基板上の微細回路に流れ込むと即座に短絡する。液体金属の使用時はマスキングテープでIHS周辺を保護し、はみ出しを防止する必要がある。