TIM(サーマルインターフェースマテリアル)(ティーアイエム)
発熱体(CPUダイ、GPUチップ等)と放熱体(ヒートスプレッダ、ヒートシンク等)の界面に挿入して接触熱抵抗を低減する素材の総称。サーマルペースト、サーマルパッド、液体金属、相変化材料、はんだなど多様な形態が存在し、それぞれ異なる用途と性能特性を持つ。
TIM(サーマルインターフェースマテリアル)とは
TIM(Thermal Interface Material / サーマルインターフェースマテリアル)は、熱源と放熱器の界面(インターフェース)に配置して熱抵抗を低減する素材の包括的な総称である。PC自作分野では「CPUグリス」として知られるサーマルペーストが最も身近なTIMだが、実際にはCPU内部のダイとIHS間(TIM1)、IHSとクーラー間(TIM2)、GPUのダイとVRAM間など、電子機器内の複数の熱界面にそれぞれ最適化されたTIMが使用されている。
TIMの階層分類
現代のCPUパッケージには2層のTIMが使用されている。
TIM1(ダイ⇔IHS間)
CPUダイとIHS(Integrated Heat Spreader)の間に充填されるTIM。メーカーが工場で適用するため、ユーザーが直接触れることは通常ない。
| 世代 | TIM1素材 | 熱伝導率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Intel 3-9世代 | シリコンペースト | 3-5 W/m·K | 「歯磨き粉」と揶揄された |
| Intel 10-14世代 | STIM(はんだ) | 50-80 W/m·K | 性能大幅改善 |
| AMD Ryzen全世代 | インジウムはんだ | 50-80 W/m·K | 初代から一貫してはんだ |
| ノートPC(薄型) | DTM(Direct-to-Mold) | N/A | IHSなし・ダイ直結 |
Intel の第3-9世代でシリコンペーストが使われていた時期は、「殻割り」(IHSを取り外して液体金属に交換)が一大ジャンルとなっていた。第10世代以降のSTIM(Solder TIM)採用により、殻割りの必要性は大幅に低下した。
TIM2(IHS⇔クーラー間)
IHSとCPUクーラーのベースプレートの間に塗布するTIM。ユーザーが自分で選択・塗布するため、PC自作で「サーマルペースト」と言えばこのTIM2を指す。
TIMの性能指標
バルク熱伝導率 vs 接触熱抵抗
メーカーのスペックシートに記載される「熱伝導率 (W/m·K)」はバルク素材の特性であり、実際の冷却性能を直接予測できない。実使用条件での性能は接触熱抵抗 (Rjc, ℃·cm²/W) で評価すべきである。
接触熱抵抗は以下の要因に依存する:
- BLT(Bond Line Thickness): 実際の塗布厚さ。薄いほど熱抵抗が低い
- 表面濡れ性: TIMが金属表面の凹凸にどれだけ密着するか
- 接触圧: クーラーの取り付け圧力。圧力が高いほどBLTが薄くなり性能が向上
- ポンプアウト: ヒートサイクルでTIMが接触面から押し出される現象
TIM種別の接触熱抵抗比較
| TIM種別 | 典型的な接触熱抵抗 (℃·cm²/W) | BLT (μm) |
|---|---|---|
| はんだ(TIM1) | 0.01-0.03 | 25-50 |
| 液体金属 | 0.02-0.05 | 10-30 |
| 金属配合ペースト | 0.05-0.15 | 25-50 |
| セラミックペースト | 0.10-0.30 | 30-75 |
| サーマルパッド | 0.50-2.00 | 500-3000 |
| 相変化材料(PCM) | 0.05-0.20 | 15-50 |
最新のTIM技術動向
グラフェン配合TIM
グラフェンの面内熱伝導率(3000-5000 W/m·K)を活用した次世代TIMの研究が進んでいる。グラフェンナノプレートレットをシリコンマトリクスに分散させることで、従来のセラミックフィラーより高い熱伝導率を実現できる。ただし量産コストと均一分散の課題が残る。
カーボンナノチューブ(CNT)アレイ
垂直配向CNTアレイを TIM として使用する研究が進行中。CNTの軸方向熱伝導率は3000 W/m·K以上であり、界面への機械的な食い込みにより超低接触熱抵抗を実現できる。Intel、IBM、Georgia Tech などが研究を主導している。
相変化材料の進化
Honeywell PTM7950 に代表される相変化材料が、ノートPC市場で急速にシェアを拡大している。固体→軟化状態の相変化で界面密着性を確保しつつ、ポンプアウト耐性と長期安定性でペーストを上回る。
FAQ
TIM1とTIM2はどちらが冷却性能に影響しますか?
現代のCPU(STIM採用)ではTIM2(ユーザー塗布のサーマルペースト)の方が影響が大きい。TIM1がはんだ(50-80 W/m·K)の場合、TIM1の熱抵抗は極めて低く、ボトルネックはTIM2(1-15 W/m·K)にシフトする。ただしIntel 3-9世代のシリコンペーストTIM1では、TIM1がボトルネックであったため殻割りが有効だった。
殻割り(デリッド)は今でも必要ですか?
Intel 第10世代以降とAMD Ryzen全世代はSTIM(はんだ接合)を採用しており、殻割りの効果は2-5℃程度と限定的。極限のオーバークロック(LN2冷却等)を除き、高品質なTIM2ペースト(Kryonaut等)を適切に塗布する方が安全かつ効果的である。
同じTIMをCPUとGPUに使えますか?
基本的には同じサーマルペーストを使用可能。ただしGPUの場合はダイが直接露出している(IHSなし)ケースが多く、液体金属はダイ表面のシリコンを侵食しないが、周辺のSMD部品への漏洩リスクがある。GPUには非導電性の金属配合ペースト(Kryonaut等)が最も安全な選択である。