ENIAC(イニアック)
1946 年米 University of Pennsylvania 発表の世界初汎用電子計算機。17,468 本真空管 / 30 トン重量 / 1,800 平方フィート占有・毎秒 5,000 加算実現の弾道計算用機、コンピュータ歴史上最重要マシン。
概要
ENIAC(イニアック、Electronic Numerical Integrator And Computer)は、1946 年 2 月に米ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)Moore School of Electrical Engineering が公開した世界初の汎用電子デジタル計算機です。第二次世界大戦中の 1943 年に米陸軍弾道学研究所(BRL、Ballistics Research Laboratory)向けの弾道計算用機として設計が始まり、設計責任者は John Mauchly(モークリー、物理学者)と J. Presper Eckert Jr.(エッカート、電気工学者)です。
ENIAC 開発の主目的は、第二次大戦中の砲撃弾道計算の高速化でした。当時の弾道計算は「ヒューマン・コンピューター」と呼ばれる人間が機械式計算機で 1 弾道あたり数十時間かけて手計算する状況で、ENIAC はこれを 30 秒で完了させることを目指しました。設計開始から完成まで 3 年を要し、戦後の 1946 年 2 月 14 日に完成・公開されました(完成時点で戦争はすでに終結していた)。
物理スペックは圧倒的でした。17,468 本の真空管・1,500 個のリレー・70,000 個の抵抗・10,000 個のキャパシタ・5,000,000 個の手はんだ接続を使用、重量 30 トン・占有面積 1,800 平方フィート(167 平方メートル、テニスコート 2 面相当)・消費電力 150kW という巨大なマシンで、専用の冷却装置と発電機を必要としました。「ENIAC が稼働すると米フィラデルフィア市西部の街灯が薄暗くなった」という伝説が残っています。
性能は毎秒 5,000 回の加算・357 回の乗算・38 回の除算を実現しました。これは当時の機械式計算機(Bush 微分解析機等)の 1000 倍以上、人間ヒューマン・コンピューターの 200 万倍以上の速度で、現代コンピュータの直接の祖先として「コンピュータ歴史上最重要マシン」と称される伝説的システムです。プログラミングはケーブル接続とスイッチ手動操作で行い、配線変更に数日かかる「物理プログラミング」だったため、後の「プログラム内蔵方式(stored-program、フォン・ノイマン式)」の必要性が明らかになり、EDSAC(1949、ケンブリッジ大学)・EDVAC(1949、ペンシルベニア大学・ENIAC 後継)へと繋がる現代計算機アーキテクチャの確立に直結しました。
ENIAC 自体は 1955 年 10 月まで運用され、9 年間の現役期間中に弾道計算 / 核兵器シミュレーション / 気象計算 / 風洞実験データ処理など多くの計算で活躍しました。引退後、解体された部品の一部が Smithsonian 博物館・Computer History Museum・University of Pennsylvania 博物館等に展示され、現代も見学可能です。
主な特徴・仕組み
- 公開: 1946 年 2 月 14 日、米ペンシルバニア大学。
- 設計責任者: John Mauchly(物理学者)、J. Presper Eckert Jr.(電気工学者)。
- 部品数: 真空管 17,468 本 + リレー 1,500 個 + 抵抗 70,000 個 + キャパシタ 10,000 個。
- 物理サイズ: 重量 30 トン・占有 1,800 平方フィート(167m²)・消費電力 150kW。
- 性能: 毎秒 5,000 加算 / 357 乗算 / 38 除算 / 35 平方根。
- 数値表現: 10 進数 10 桁、加減算は固定 / 乗除算は浮動小数点風。
- プログラミング: ケーブル接続 + スイッチ手動操作(物理プログラミング)。
- メモリ: 20 個の 10 進アキュムレータレジスタ(現代の 200 バイト相当)。
- 主な用途: 弾道計算 / マンハッタン計画核兵器シミュレーション / 気象計算。
- 運用期間: 1946-1955 年。
- 後継: EDVAC(1949、stored-program 方式)、UNIVAC I(1951、商用化)。
ENIAC / 同時代計算機 比較
| 機種 | 公開年 | 部品 | 性能 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| ENIAC | 1946 | 真空管 17,468 | 5,000 加算/秒 | 弾道計算 |
| Colossus(英) | 1944 | 真空管 1,500-2,500 | 暗号解読特化 | エニグマ解読 |
| Z4(独) | 1945 | リレー 2,200 | 数学計算 | 工学 |
| ABC(米、未完) | 1942 | 真空管 280 | 線形方程式 | 教育 |
| EDSAC(英) | 1949 | 真空管 3,000 | 600 加算/秒 | プログラム内蔵第一号 |
自作PCユーザー向けの注意点
ENIAC は当然新規購入できる機材ではありませんが、解体された部品の一部が Smithsonian National Museum of American History(ワシントン D.C.)・Computer History Museum(カリフォルニア州マウンテンビュー)・University of Pennsylvania Hagley Museum 等に展示されており、見学可能です。
ENIAC のシミュレータがインターネット上で公開されており(Wolfram Mathematica / Java エミュレータ等)、現代の自作 PC でブラウザから ENIAC を疑似体験できます。コンピュータ史 / 計算機アーキテクチャ学習の教材として、ENIAC のプログラミング体験は極めて貴重です。
関連用語との違い
- ABC(Atanasoff-Berry Computer、1942): 世界初の電子デジタル計算機(未完)、線形方程式特化で汎用ではない。
- Colossus(1944): 英国のエニグマ解読特化マシン、暗号特化で汎用計算不可。
- Z3 / Z4(独、1941 / 1945): リレー式計算機、機械式に近い別系統。
- EDVAC(1949): ENIAC 後継、世界初の本格 stored-program 方式マシン。
- UNIVAC I(1951): 世界初の商用デジタルコンピュータ、Eckert-Mauchly Computer Corp.。
よくある質問(FAQ)
Q1: なぜ ENIAC が「世界初の汎用電子計算機」と呼ばれるのですか? A: 純粋電子(真空管)で動作し、汎用的に再プログラム可能(完全 Turing-complete に近い)で、実用稼働した最初の計算機だからです。Colossus は暗号解読特化、ABC は未完で部分機能のみ、Z シリーズはリレー(機械式)主体だったため、これらすべてを満たすのは ENIAC が初です。
Q2: ENIAC は本当に街灯を暗くしましたか? A: 都市伝説的に語られますが、150kW という消費電力は工場 1 つ分相当で、フィラデルフィア大学キャンパス内の電圧変動を引き起こしたのは事実です。市全体の街灯が暗くなる効果はおそらく誇張ですが、近隣の電源負荷には確実に影響していました。
Q3: ENIAC のプログラマは誰でしたか? A: 主に Kay McNulty(ケイ・マクナルティ)・Betty Snyder(ベティ・スナイダー)・Marlyn Wescoff(マーリン・ウェスコフ)・Fran Bilas(フラン・ビラス)・Ruth Lichterman(ルース・リヒターマン)・Adele Goldstine(アデル・ゴールドスタイン)の 6 人の女性数学者で、世界初のプログラマたちとされます。彼女たちの貢献は近年、映画 / 書籍で再評価されています。
まとめ
- 1946 年米ペンシルバニア大学公開の世界初汎用電子計算機
- 真空管 17,468 本 / 30 トン / 167m² / 消費 150kW の巨大システム
- 毎秒 5,000 加算で当時の機械式の 1000 倍以上の速度
- 弾道計算 / 核兵器シミュレーション / 気象計算で 9 年活躍