
近年、個人がデータを管理・保存する重要性が高まる中、自宅サーバーとしての Network Attached Storage(NAS)への関心が急速に高まっています。NAS とは、ネットワークを通じて複数のデバイスからファイルやメディアを共有できるサーバー装置のことを指し、クラウドストレージサービスとの併用や代替として注目されています。特に近年では、Google ドライブや Dropbox といった無料枠の容量制限や月額課金の負担を懸念するユーザーが増加しており、一度購入してしまえばランニングコストを最小限に抑えられるオンプレミス型の NAS の需要が伸びています。
その中で、Raspberry Pi(以下、ラズパイ)を活用した自作 NAS は、初心者から中級者まで幅広い層に支持される構成となっています。ラズパイは元々教育用や実験用のマイクロコンピュータとして開発されましたが、その低消費電力性や拡張性の高さから、家庭用サーバーとしてのポテンシャルが開花しました。特に OpenMediaVault(以下、OMV)という Linux ベースの軽量な NAS 用オペレーティングシステムと組み合わせることで、専門的な知識がなくても高機能なファイルサーバーを構築することが可能になります。
なぜ今、ラズパイで NAS を構築するのかという理由には、経済性と環境負荷の低さが大きく関わっています。市販の高級 NAS ベースユニットは、性能が高い反面、本体価格に数千円から数万円単位のコストがかかることが一般的です。一方、ラズパイベースであれば、本体に数千円で済み、外付けハードディスクさえ用意すればトータルコストを大幅に削減できます。さらに、常時稼働させる場合でも消費電力が 5 ワットから 10 ワット程度と極めて低いため、電気代も年間数百円レベルに抑えることが可能であり、環境にも優しい選択と言えます。
また、ラズパイNAS の静音性も大きなメリットの一つです。一般的なデスクトップ PC や高性能 NAS サーバーでは、冷却ファンやハードディスクの回転音が発生し、寝室や静かなリビングでの設置には向かないケースがあります。しかし、ラズパイはファンレスで稼働可能なモデルが多数あり、SSD を起動ドライブとして採用すれば機械的なノイズをほぼゼロにできます。静音性を重視する環境でも、24 時間 365 日稼働し続けるバックアップサーバーやメディアサーバーとしての役割を担うのに適しているのです。
Raspberry Pi NAS を構築するために必要な機材は、主に Raspberry Pi の本体、ストレージデバイス、そして電源供給装置の 3 つが柱となります。まず本体については、2026 年時点において最も推奨されるのは「Raspberry Pi 5」です。Pi 4 も依然として利用可能ですが、Pi 5 は USB 3.0 コントローラーを標準搭載しており、外付け SSD や HDD を接続した際の転送速度が飛躍的に向上します。特に NAS 運用ではデータ書き込み頻度が高いため、USB 2.0 制限の Pi 4 よりも Pi 5 の方が長期的な安定性と速度面で優れています。ただし、予算を抑えたい場合は Pi 4 でも十分に実用性は確保できますが、その場合は USB 3.0 対応の外付けドライブケースを使用することが必須となります。
ストレージデバイスの選定は、用途に応じて慎重に行う必要があります。基本的には外付け HDD または SSD を USB ポート経由で接続します。大容量のデータ保存やメディアライブラリ利用を主目的とする場合、1TB から 8TB の外付けハードディスクが向いています。具体的には Western Digital の「My Passport」シリーズや Seagate の「Backup Plus」などが信頼性が高く安価です。一方、OS を起動するドライブや頻繁にアクセスされるデータ用として SSD を利用する場合、SanDisk の「Extreme Portable SSD」や Samsung の「T7 シリーズ」のような USB 3.2 Gen2 対応のポータブル SSD が推奨されます。SSD はランダム読み書き速度が速く、OS の起動やファイルリストの表示が高速になるため、体感速度を向上させる上で大きな効果があります。
電源供給装置については、ラズパイ NAS 構築において最も見落としがちで重要なポイントです。特に Raspberry Pi 5 では USB-C ポートによる給電が必要ですが、市販の安価なスマホ用充電器では安定動作が保証されないケースが多々あります。NAS は 24 時間稼働するため、電源断や電圧降下はデータ破損の重大な原因となります。したがって、Raspberry Pi 公式から販売されている「USB-C PD パワーサプライ」を使用するか、あるいは品質証明された USB PD 対応アダプタ(5V3A またはそれ以上の出力に対応しているもの)を選ぶ必要があります。また、ストレージ接続時の電流供給も考慮し、電源容量に余裕のある製品を選定することが推奨されます。
ネットワーク環境については、有線 LAN 接続が必須です。無線 LAN を使用すると転送速度の不安定さや遅延が発生し、大容量ファイルのやり取りやバックアップ時にタイムアウトエラーを引き起こすリスクが高まります。ラズパイ本体に内蔵されている Gigabit Ethernet ポートを利用するため、LAN ケーブルは Cat5e 以上の規格を使用してください。ルーターとの接続距離が長い場合や、壁内の配線がない場合は USB LAN アダプタも有効な選択肢ですが、Pi 4/5 の標準ポートを使用する方が安定性が最も高いため、まずは有線環境の確保を優先しましょう。
OpenMediaVault(OMV)は、Debian Linux をベースにしたオープンソースの NAS 用 OS です。ラズパイにインストールすることで、Web ブラウザから直感的な操作でファイル共有やバックアップ設定を行えるようになります。2026 年時点では「OMV7」が最新安定バージョンとして推奨されており、最新のセキュリティパッチと機能拡張を享受できます。インストールには、まずラズパイの microSD カードに OS を書き込む必要がありますが、ラズパイ専用 OS である Raspberry Pi OS に OMV のパッケージを追加する方式と、OMV 公式イメージを直接使う方式があります。今回は初心者でも失敗が少ない「Raspberry Pi OS Lite に OMV をインストール」という構成で解説します。
事前準備として必要なものは、ラズパイ本体、microSD カード(32GB 以上推奨)、PC、LAN ケーブルです。まず PC 上で SD カードフォーマッターなどのツールを使用して、ラズパイ公式の Raspberry Pi OS Lite(Bookworm バージョン)を microSD カードに書き込みます。「Lite」版を選んだ理由は、GUI 環境がないためシステムリソースをすべて OMV の運用に回せるからです。書き込みが完了したら、カードをラズパイに挿入し、LAN ケーブルで PC と接続して電源を入れます。この時、SSH 経由での初期設定が必要になるため、PC 側で SSH クライアント(PuTTY や Terminal アプリなど)の準備も忘れずに行っておきましょう。
OMV のインストールスクリプトを実行する前に、ラズパイの SSH 設定を有効にする必要があります。OS を書き込んだ直後の状態では SSH が無効になっているため、SD カードに挿入されたままの状態で PC に接続し、「ssh」という名前の空ファイルを作成することで自動で初期化が完了します。これにより、次のステップでラズパイへのログインが可能になります。IP アドレスの確認も重要であり、DHCP サーバー(ルーター)から割り当てられた IP を特定する必要があります。「nmap scan -sn 192.168.x.x」やルーターの管理画面を確認して、対応する IP アドレスを把握しておきましょう。
インストール手順は SSH 接続後にコマンドラインで実行します。まずシステムを最新状態に更新するため、「sudo apt update && sudo apt upgrade -y」というコマンドを入力します。その後、OMV の公式リポジトリを追加し、パッケージリストを更新します。最後に「curl -sL https://github.com/OpenMediaVault-Plugin-Developers/installScript/releases/download/v7/omv-install.sh | bash」のようなインストールスクリプトを実行することで、Web 管理画面を起動する環境が構築されます。このプロセスには数分の時間がかかり、再起動後にブラウザでラズパイの IP アドレスにアクセスして OMV の初期設定画面が表示されれば完了です。
OMV のインストールが完了し、Web ブラウザから管理画面にログインすると、まずは基本情報の入力とユーザー作成を求められます。ここで重要なのは、管理者パスワードの強度を高く設定することです。セキュリティ上のリスクを避けるため、アルファベット大文字・小文字・数字・記号を組み合わせた複雑なパスワードを指定しましょう。また、メール通知機能を設定することで、システムエラーやディスク故障時のアラートを smartphone へ送ることも可能です。これは中級者向け機能ですが、データ保護の観点から積極的に活用すべき設定です。
ネットワーク設定においては、固定 IP アドレスの割り当てが推奨されます。DHCP を使用し続けると、ルーター再起動後に NAS の IP が変更され、クライアント側での接続パスが壊れる可能性があります。OMV 管理画面内の「Network -> Interfaces」セクションから、LAN インターフェイスを編集し、IP アドレスを静的に設定します。例えば、192.168.0.100 などをルーターの DHCP スコープ外で指定することで、常に同じアドレスにアクセス可能になります。また、DNS サーバーとして自宅内の DNS(例:Pi-hole)やパブリック DNS(Google の 8.8.8.8 など)を設定し、ネットワーク応答性を確保しましょう。
ユーザーとグループの管理も初期設定の重要な一部です。OMV ではファイルごとのアクセス権限を細かく制御できるため、複数の家族や友人が共有フォルダを利用する際にも便利です。「Users」セクションで新しいユーザーを作成し、それぞれに適切なパスワードを設定します。また、外部から SSH 接続してコマンド操作を行う際に使用するシステムアカウントの管理も、ここで行います。セキュリティのためには、root ユーザーでの直接ログインを禁止し、一般ユーザーとしてログイン後、sudo コマンドを使用して管理者権限を一時的に取得する運用が望ましいです。
さらに、ファームウェアやパッケージの更新設定を行います。OMV は定期的なアップデートにより脆弱性対策が行われます。「System -> Information」画面から現在のバージョンを確認し、「Settings -> Updates」で自動チェックを有効化します。ただし、重要な機能更新を行う際は事前にバックアップを取得する習慣が求められます。また、Web 管理画面にアクセスするポート番号(デフォルトは 80)の変更も検討の余地があります。セキュリティ・バイ・デザインとして、普段使わないポートを使用することで、自動スキャンツールからの攻撃を回避できる場合があります。
ストレージデバイスを OMV に認識させるには、まず物理的な接続を確認し、システム上でディスクが検出されているか確認します。「Storage -> Disks」メニューから、接続されたハードディスクや SSD のリストが表示されれば正常です。ここで重要なのは、ディスクのファイルフォーマットを選択する点です。Linux 環境では一般的に ext4 が推奨されますが、OMV ではファイル共有時の互換性を考慮し、NTFS や exFAT も利用可能です。ただし、OS の安定性やデータ整合性を最優先するなら、Linux ネイティブなファイルシステムである「ext4」またはパフォーマンス重視の「xfs」の使用を強くお勧めします。
フォーマットを実行する際は注意が必要です。ディスク選択画面で対象ドライブを選び、「Format」ボタンを押すと、すべての既存データが削除されます。特に重要なデータを保存している HDD を誤ってフォーマットしないよう、事前にバックアップやデータ転送を完了させることが必須です。また、RAID(Redundant Array of Independent Disks)構成についてもここで検討します。2 台以上のディスクを用意し、1 台が故障してもデータ消失を防ぐ RAID 5 や RAID 6 を構築することも可能ですが、SSD の寿命問題や初期設定の複雑さから、単一ドライブでの運用(Single Disk)の方が初心者には管理面で推奨されます。
ストレージをフォーマット後、「Filesystems」セクションでマウントポイントを設定します。例えば「/srv/dev-disk-by-label-xxxx」というパスを作成し、そこにデータ保存領域として割り当てます。この設定がないと、ファイル共有サービスで保存先フォルダとして指定することができなくなります。また、スワップ(仮想メモリ)の確保も重要なステップです。ラズパイは RAM 容量が限られているため、HDD や SSD にスワップファイルを作成し、メモリ不足時のパフォーマンス低下を防ぐ設定を行います。「Swap File」セクションからスワップサイズを 2GB から 4GB に設定することで、システム全体の安定性が向上します。
さらに、ディスクの健康状態監視機能(SMART)の設定も欠かせません。ラズパイ NAS は長時間稼働するため、ハードウェアの劣化を早期に検知する必要があります。「Storage -> SMART」セクションで各ドライブの有効化を行い、自己診断テストを設定します。これにより、エラーが発生する前にユーザーへ警告通知を出すことが可能になり、データ損失リスクを最小限に抑えることができます。また、温度センサー情報を監視して過熱による障害を防ぐ設定も併せて行いましょう。
ファイル共有の核心となるのは「Samba」プロトコルです。Windows や macOS などの PC がネットワーク上の他の機器からデータを直接読み書きするために使用される標準規格で、OMV はこれをデフォルトでサポートしています。「Shared Folders」セクションを作成し、先ほど設定したストレージ領域を共有フォルダとして登録します。ここで指定する「Folder Name」は、外部からアクセスする際のパス名となるため、分かりやすい名前(例:FamilyData, MediaLib)を選ぶと管理が楽になります。
アクセス権限の設定では、「Permissions」タブでユーザーごとの読み書き可否を詳細に制御できます。例えば、「Family」フォルダには全家族メンバーが書き込み可能にする一方、「PersonalFiles」は特定のアカウントのみが閲覧・編集できるような設定が可能です。Windows 環境では「グループポリシー」や「ACL(アクセス制御リスト)」の概念と類似しており、OMV 側で適切に設定しておけば、後からトラブルシューティングを行う手間を大幅に削減できます。「Read Only」(読み取り専用)を設定したフォルダは、誤ってファイルが削除されるリスクを防ぐためにも、重要なバックアップデータ用などに有効です。
さらに、Samba のバージョンやセキュリティ設定も確認する必要があります。デフォルトでは SMB1 プロトコルが無効化されており、より安全な SMB2 や SMB3 が使用されます。古い Windows 7 などとの互換性が必要な場合のみ SMB1 を有効化するよう指示が出ますが、セキュリティリスクが高いため基本的には無効のまま運用するのが正解です。「Samba」設定画面で「Security Level」を確認し、「Share」または「User」レベルが適切に設定されているか確認しましょう。
Mac 環境での利用を想定する場合、AFP プロトコルではなく SMB を使用することが推奨されています。近年の macOS では AFP のサポートが縮小しており、SMB over TCP/IP の方が高速で安定しています。OMV 管理画面内の「Samba」設定で「Mac OS X」互換性を有効化することで、Finder や Time Machine との連携をスムーズにします。これにより、Windows ユーザーと Mac ユーザーが同じネットワーク内で円滑にデータをやり取りできる環境が整います。
Windows 端末から NAS にアクセスするには、エクスプローラーを使用するのが最も一般的です。「ファイル名を指定して実行」画面(Windows キー + R)を開き、「\NAS の IP アドレス」と入力します。例えば「\192.168.0.100」と入力すると、共有フォルダのリストが表示されます。ここでユーザー名の入力プロンプトが出たら、OMV 側で作成したアカウント情報を入力してください。ログインに成功すると、ネットワークドライブとしてマッピングすることも可能です。「この PC」内の「システムドライブ」メニューから「ネットワークドライブのマッピング」を選択し、任意の文字(例:Z ドライブ)を割り当てることで、ファイル管理が容易になります。
Mac ユーザーの場合は Finder を使用して接続します。Finder メニューの「移動」->「サーバーに接続」を選び、アドレスとして「smb://NAS の IP アドレス」を入力します。これで Mac 側のネットワーク環境と NAS が連携し、外部ディスクのように扱えるようになります。特に Time Machine との連携を想定している場合は、OMV 側で「Time Machine」サポート機能を有効にし、専用ボリュームを作成しておく必要があります。これにより、Mac ユーザーは OS の標準機能を使ってバックアップ先として NAS を選択でき、非常にスムーズな運用が可能です。
スマートフォンやタブレットからの利用も現代では必須です。Android や iOS では専用のファイル管理アプリを使用することで、NAS 上のファイルをクラウド同様に取り扱えます。例えば「Solid Explorer」や「Documents by Readdle」といったアプリをインストールし、SMB プロトコルで接続設定を行います。IP アドレスと認証情報を入力するだけで、動画のストリーミング再生や写真のバックアップが可能になります。また、OMV には公式の WebDAV サポートも含まれており、これを利用すれば iPhone の「ファイル」アプリから直接アクセスすることも可能です。
さらに、ブラウザ経由での簡易的なデータ転送も行えます。OMV 管理画面とは別に、「File Browser」プラグインなどを導入することで、Web ブラウザ上でドラッグ&ドロップによるファイルアップロード・ダウンロードが可能になります。これは PC が遠隔地にあり、手元にスマホしかない場合などに非常に便利です。ただし、ブラウザ経由での大規模なデータ転送は速度が不安定になる可能性があるため、重要な作業には専用クライアントアプリの使用を推奨します。
NAS の最大の価値の一つはデータの永続的な保存ですが、物理メディアの故障リスクは常に存在するため、自動バックアップ機能の構築は不可欠です。OMV には標準で「rsync」を利用したバックアップ機能が搭載されており、外部ドライブやクラウドストレージへデータを複製するスクリプトを容易に実行できます。「Backup -> Rsync」セクションから転送元と宛先を設定し、スケジュール(例:毎日午前 2 時)を指定することで、非稼働時間中に自動的にバックアップを実行します。これはミラーリング型ではなく差分更新を行うため、保存領域の有効活用が可能です。
特に重要なのが「Time Machine」利用時の設定です。Mac 端末の Time Machine を NAS 宛てに設定する場合、OMV 側で Time Machine ボリュームを生成する必要があります。「Shared Folders」でフォルダを作成し、そのプロパティから「Enable Time Machine」オプションを有効化します。すると Mac 側の Time Machine プリファレンス画面に NAS が表示されるようになり、選択してバックアップを開始できます。設定が完了すると、Mac のシステムイメージや個人ファイルが自動的に NAS に保存され、PC を買い替えた際にもスムーズな復元が可能になります。
クラウドストレージとの連携も検討の余地があります。OMV には Google Drive や Amazon S3 などのクラウドサービスと同期するプラグインが存在します。ローカル環境とクラウドの双方にデータを保存することで、「RAID で故障対策」+「オフサイトバックアップで災害対策」という二段構えを実現できます。rsync スクリプトをカスタマイズし、特定のフォルダのみをクラウドへ転送するように設定することも可能です。ただし、通信料やストレージ容量コストが発生するため、重要なデータに限定して運用することが推奨されます。
また、定期的なチェックサム検証も忘れてはいけません。バックアップデータを保存した後、そのファイルが破損していないかを確認する機能です。「Backup -> Checksum」セクションで設定することで、保存されたデータの整合性を定期的に確認します。これは「サイレントデータ破壊」と呼ばれる、長時間稼働すると発生する可能性のあるデータ欠落を防ぐための重要な手段であり、特にメディアサーバーとして動画ファイルを保存する場合に有効です。
Raspberry Pi NAS の性能については、実際の転送速度を正しく理解しておく必要があります。理論上は Gigabit LAN(1Gbps)が上限ですが、実際の運用ではプロトコルのオーバーヘッドや USB コントローラーの制限により、約 100MB/s から 120MB/s が実測値として一般的です。これは市販の高速 NAS と遜色ないレベルであり、日常の利用や動画ストリーミングには十分な速度です。ただし、USB 3.0 の接続品質や SSD/ HDD の転送性能によって速度差が生じるため、使用するディスクの種類に注意が必要です。
ボトルネックとなりやすいのは USB コントローラーと電源供給です。特に Raspberry Pi 4 や Pi 5 は USB コントローラーの負荷が集中しやすく、複数の USB デバイスを接続すると帯域幅が競合して速度低下を引き起こすことがあります。例えば SSD と HDD を同時に接続する場合、SSD の読み書き中に HDD の応答が遅れる現象が発生します。これを防ぐため、SSD は起動用やキャッシュ用に使い、HDD は大容量保存用に役割を分ける運用がおすすめです。また、USB 3.0 ハブを使用する場合は、電源供給能力のあるアクティブハブを選ぶことで、電圧降下による速度低下を防げます。
発熱対策もパフォーマンス維持に直結します。ラズパイは高温になるとクロックスケーリングにより性能を自動的に低下させるため、放熱ケースの装着やファン設置が推奨されます。特に夏場や密閉された場所での運用時は、本体温度が 70 度を超えないよう監視してください。「omv-extras」パッケージに含まれる温度モニタリングツールを使用することで、リアルタイムで温度を確認できます。また、OS の起動ドライブとして SD カードを使用すると、長時間稼働による書き込み劣化のリスクがあります。eMMC モジュールや SSD ブートキットを使用して起動ドライブを切り替えることで、システム全体の安定性と読み込み速度が向上します。
Synology や QNAP といった市販の NAS プロダクトと比較した場合、Raspberry Pi NAS は明確なコストメリットとカスタマイズ性の高さを持ちます。Synology のエントリーモデル「DS223j」などは、50,000 円前後で販売されていますが、同じ性能(HDD 2 台挿し)のラズパイ構成であれば、本体代を差し引いても 10,000 円〜15,000 円程度で済みます。特に初期投資を抑えたい学生や、趣味としての自作に熱意を持つユーザーにとって、このコスト差は非常に魅力的です。また、Synology の DiskStation Manager(DSM)のような完成された UI は魅力的ですが、ラズパイの OMV は Linux の知識を一部習得することで、より深くシステムを制御できる点で中級者以上のニーズに応えます。
ただし、市販 NAS の最大の強みである「初期設定の簡易さ」と「ファームウェアサポート」においては、Raspberry Pi の方が劣ります。Synology や QNAP は購入すればすぐに使える状態であり、メーカーが提供する保証やサポート体制があります。一方、OMV を利用する場合は、システムエラー時のトラブルシューティングを自分で行う必要があります。また、ハードウェアの互換性が市販製品ほど保証されていないため、特定の SSD や USB ハブとの相性で動作不良が発生する可能性もゼロではありません。初心者にとっては、市販 NAS の方がストレスが少ないと言えます。
性能面では、同価格帯の比較において Raspberry Pi が優位なケースと市販 NAS が優位なケースがあります。例えば CPU 性能においては、Synology のエントリーモデルは低消費電力 ARM プロセッサを採用しており、ラズパイとの差はあまり大きくありません。しかし、市販 NAS は RAID ハードウェアコントローラーを搭載しているため、RAID5 の計算処理など重いタスクにおいて高速に動作します。一方で OMV のソフトウェア RAID では CPU リソースを消費するため、動画エンコードなどの負荷の高いタスクには不向きです。用途が単純なファイル保存やバックアップであれば、ラズパイの方が十分すぎる性能を発揮します。
本記事では、Raspberry Pi を活用した NAS サーバーの構築方法について、具体的な手順と設定情報を詳細に解説しました。以下に重要なポイントをまとめますので、実践的な導入の際にご参照ください。
Raspberry Pi NAS は、単なるファイル保存装置ではなく、自宅内のデータ管理を最適化するインフラとして機能します。初心者の方は市販 NAS の手軽さを選んでも構いませんが、自作に挑戦することで得られる知識は、将来的なサーバー構築やシステム管理において強力な武器となります。2026 年現在、クラウドストレージのコスト上昇やプライバシー意識の高まりに伴い、オンプレミス型のデータ保存需要は今後も拡大すると予想されます。
今後の展望としては、Docker コンテナ技術を活用したアプリケーションの追加展開も可能です。例えば Plex や Jellyfin を導入して家庭内メディアサーバーとして活用したり、Home Assistant と連携させて IoT デバイスの管理用データベースにしたりすることもできます。OMV のプラグインストアには多彩な拡張機能が用意されており、NAS を単なる「箱」から「自律的なホームサーバー」へと進化させるポテンシャルを秘めています。
安全かつ効率的に運用するためには、定期的なメンテナンスとモニタリングが不可欠です。ディスクの SMART 情報を監視し、異常を検知したら早期に対応する癖をつけてください。また、重要なデータは必ずオフサイトバックアップ(クラウドや別の物理メディア)を取得しておくことが鉄則です。ラズパイ NAS の構築は、ハードウェアの知識だけでなく、システム全体のアーキテクチャを考える良い練習になります。
本ガイドが、読者の方々の自宅サーバーライフを豊かにする一助となれば幸いです。もし不明点やトラブルが生じた場合は、公式フォーラムやコミュニティで情報を収集し、解決策を探してください。自作の楽しさと技術的な達成感を味わいながら、安全で快適なデータ環境を構築していきましょう。

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